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いのちだいじに

四月は君の嘘:原作と相容れなかった悲しみ

先に結論から言いますけど、私この記事で色々言ってますけど私がこの作品にフィットしなかっただけなんでみんな見てください!!!

舞台「四月は君の嘘」東京公演を観ました。原作は最後まで読んだのですが、苦手でした。
とても人気のある作品です。主人公の公生がトラウマを克服して一歩踏み出すまでの1年間が全11巻でとても丁寧に描かれていて、好きとか嫌いとかでは片付けられない複雑で瑞々しい気持ちをこんなふうに表現できるんだと驚きます。クライマックスは泣きました。でもやっぱり私は苦手なのです。
以下、原作が苦手で舞台を観てもやっぱりだめだった人間の正直な感想です。大阪公演が控えているので、ネタバレには配慮したつもりです。

 

 

全体的な所感


原作が合うか合わないか、それが全てなのではないかと思いました。演者も生演奏も劇判も照明も演出も良かったので。もちろん原作が好きだと、主要人物1人とそれにまつわるエピソードがまるまるカットされていることや駆け足展開なことなど、舞台化で生じる編集に納得がいかない方もおられるかと思いますが、原作で私がステキだと思うところ、苦手だと思うところがそのまま表現されていたので、原作の要素がうまく散りばめられていたんだと思います。

 

なぜ自分は原作が苦手なのか


作品の構成とか、描かれている思春期の心の揺らぎ、人間誰しも持ち合わせている矛盾、演奏者のプライド、公生が再び弾く理由…ひとつひとつのパーツは好きなんです。
たぶん、この作品と相容れないのは、人生観とか倫理観とか、生きる上で無意識に引いているラインが自分と違うからなのかなと思います。原作に倫理観が欠如しているということでは決してないです。上手く表現できないんですけど、例えば友人の振る舞いが、「自分が気にしすぎなのかもしれないけど、ちょっとなぁ…」と思うことってあるじゃないですか。同様に自分も誰かにそう思われる部分がある。そんな感じ。うーん伝わらねえ!!!
その最たるものが、かをりの付いた嘘。私は、かをりの嘘を許せませんでした。いうてもフィクションだよ?と言うもう一人の自分もいましたが、許せませんでした。
これまで私が苦手な作品は、話の筋が通っていなかったり、キャラクターの行動原理が理解できなかったりしましたが、この作品は話の筋は通っているし、キャラクターが何を考えて何を思ってそうしたか、あるいは出来なかったのか、はっきり分かります。それなのに苦手というのが、本当に初めての経験で…自分でもびっくりしています。
いや、初めてと言いましたが、アニメ映画「君の名は」を観たときも似たようなことを思いました。「君の名は」は大ヒット作ですし、君嘘もご存知のとおり人気作ですので、相容れない私のほうがマイノリティなんだと思います…。

 

演者について


若者組は、皆正しく青春のきらめきを伝えてくれました。それも、「俺たち青春してまーす!」というのではなくて、全員が全力投球一生懸命で、大人から見て「青春だなぁ」と感じる眩しさというか。そして私は原作でも舞台でも、柏木が推しキャラです。めっちゃかわいい。同世代よりちょっと成熟した身体と精神がよい。
大人組は、若者組を支えるがっしりとした芝居の土台。それぞれの先生が生徒を思う気持ちが、大人だから本人に言ったりはしないけれど滲み出ている、その感じがすてきだなと。

推しくんについては後ほど。

 

演出について


全体的に、2.5次元舞台というより一般舞台に近い感じがしました。客入りの音楽がなく、もちろん前アナ後アナもなく、静かにヴァイオリンのチューニングの音で始まる。OPもキャラ総出ではなく役名と演者を映すのみ、歌やダンスなし、カテコも言葉はなくお辞儀のみ。良くも悪くも「2.5次元らしさ」が確立されつつある中でのこのような試みはとても面白いと思いました。
ただ、それだけに演技自体はかなり漫画に寄せられていたので、演技が浮いてみえてしまいました。原作に忠実に、それこそコマ割りやセリフのフォントや擬音、背景のトーンが想像できるほどで、演出意図どおりなんだとは思うのですが…。もう少し抑え目で観たかったです。
高低差のあるセットで、階段とカーテンがとても効果的に使われており、全体の演出を観るなら後方席がいいなぁと思いました。どんな舞台でもそうか。

 

生演奏について


いやーーーとっても良かったです。なんでアイア!?というのは舞台化が発表されたときから散々言われてると思いますが、改めて…なんでアイア!?!?!?!?
ヴァイオリニストの小林さんが奏でる奔放で情熱的で自由なかをりの演奏、ピアニストの松村さんが奏でるピアニスト3人の演じ分け、公生のひどい演奏、人生すべてを載せた美しい演奏。演奏で演技するって、なかなか見られない&聴けないと思うので、すごく楽しかった。
また、演奏は音楽家の方が生演奏をして、役者が弾いている最中の心境を表現するという演出で、この役割分担は画期的でした。楽器を演奏している時、とくに練習死ぬほどしてからの本番は、手は勝手に動いてて頭の中で色々考えているもの。原作でもやはりそうで、舞台ではどうするんだろうと思っていたので…なるほど!と膝を打ちました。

 

推しくんについて


いやもうホント最高で・・・・最高だったんですよ!!!!すみません推しくんの話になると偏差値3になる。2.5次元はちょうど1年前のロスモワぶり*1でしたが、この1年で色んな役をやった末に2次元のキャラクターを演じるとこうなるのかと…何というか、舞台の上で公生としてリアルタイムに生きているんです。推しくんの緻密な演技プランがガッチリ嵌まっているんです。だからこそ、この作品にはまれない自分にガッカリなんですが…。
えっと~~だめだまとめられないんで列挙します。
●第一声のため息がかわいい
物語自体は公生の「…はぁ~」というため息から始まるんですが、それが驚くほどカワイイんです。なんちゅうか、根暗ぎみで内気な少年が一息ついて思わず漏らしてしまったため息で要するに恐ろしくカワイイんです。この調子で行きますが大丈夫ですか?
●椿ちゃんとのやりとりがかわいい
公生は幼馴染の椿ちゃんと渡くんといるときが一番リラックスして素の状態なんですが、椿ちゃんと話しているときの弟感とか、優しい声色とか、甘えるような目線とか、かと思えば急に女の子扱いしてくるところとか、何かもうたまらんのです。アァ~椿ちゃんのお母さんになって「おばさんお邪魔します」って言われてぇ~~!!!!*2
●優しい声色
そう、公生を演じている推しくんの声は、これまで聞いたことがないくらい優しくてかわいらしかった。こんな声も出せるんだ!?と驚きましたが、推しくんの引き出しは私が観たことがないだけで沢山沢山あるんだな。
●苦悶のリアルさ
劇中何度か自分で作り出した母親の亡霊に苛まれるんですが、そういうときにこう、脇腹までヒクヒクしているんです。この人吐いちゃうんじゃ…と心配になるくらい。こういうのを推しくんは全部計算して演技しているのか、心からなりきった結果そうなっているのか、3年追ってるけど未だに分かりません。
●舞台上で恋をしている
クライマックスでかをりと向かい合うとき、何でここにいるんだという悲しみと、来てくれてありがとうという感謝の入り混じった泣き笑いをするんです*3。それが何ともいえない表情で、ああ、推しくんが恋をしている…って。前作でも恋をしていたのですが、それは童話的な感じでして、恋愛!という感じではなかったので、今作で恋する推しをやっと見れたぞ~~~!!!!*4
田中良子さんとがっつりお芝居
公生の母親役の田中良子さんとは1年前に西田さんの舞台で共演していたのですが*5そのときは1シーンしか絡みがなくて、同作のコメンタリで推しくんは「高校生の頃から見てるアンドレの良子さんと1シーンでも絡めてとても勉強になった」的なことを言っていたんですね。そんな良子さんと今回は親子役で、この作品で2つある山のうちの1つを2人で作り上げていて、感極まるものがありました。
●危うさが魅力
推しくんがよく演じる役のタイプに、「危うさが魅力」というのがある気がします。*6今回の公生も、それを感じました。ただの内気な中学生としての穏やかさと優しさ、天才ピアニストゆえの激しさと傲慢さを併せもっている。そのどちらもが、色んなシーンで見え隠れして、一体どちらが本当の公生なんだろうと興味を抱かずにはいられない。どちらも公生で、だから魅力的なんですけども。そんな公生の魅力をきっちりと表現していたと思いました。*7

 

色々言いましたが


大阪公演が9/7~9/10にあります。
原作好きな方:見てください!!!
原作苦手な方:忠実に再現されていることを念頭に、でも舞台としてとても良いので見てください!!!
原作読んだことない方:とりあえず見てください!!!

チケット&日程 | 舞台 四月は君の嘘

 

 

*1:私は男水を2.5次元にカウントしておりません

*2:そんなシーンはありません

*3:ド下手席のときに見えた

*4:幽霊という作品でも恋をしますが、あれは恋のほかに原始的な肉欲と自分を殺してくれる人にすがり付いてる感じだった

*5:DisgoonieのSin of Sleeping Snowを見てくれ

*6:「K」伏見猿比古の友情に縋る危うさとか、「幽霊」オスヴァルの厭世的な危うさとか、「戦国無双真田幸村の死に場所を求める危うさとか

*7:原作苦手と言い切る奴が何言ってんだって感じですが