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いのちだいじに

7/27 舞台「野球」飛行機雲のホームラン

この舞台の感想を書くために私はブログを始めたのかもしれない。それほどに、初日を観て、他の人に良さを伝えたくなりました。

ネタバレなしの感想(行こうか迷ってる人向け)です。

 

 

 

 

あらすじ

1944年、戦況が深刻化し、敵国の競技である野球が弾圧されると、全国中等学校野球大会は中止されてしまう。甲子園への夢を捨てきれずに予科練に入隊した少年たちは、“最後の1日”に出身校同士で紅白戦を行うことになり……。

「野球」キャストが全力プレー、安西慎太郎「客席、袖も含めてすべてが舞台」 - ステージナタリー

野球の試合しながらストーリー進めるのなんて可能なの?と懐疑的でしたが見事に両立していました。プレーの方はボールがビュンビュンのスピード感で臨場感があり、舞台自体が2時間半と普通の試合観戦くらいなのでほんとに野球を観てる気持ちになるし、状況や真相が少しずつ明らかになっていく気持ち良さがあるし、何より演者が楽しそうに野球をしている、野球だけど舞台だし舞台だけど野球、何かもうほんと「新しい観劇体験」でした。(語彙力)

以下、観に行く前に私が心配だったことに対してどうだったかという感じで↓

 

Q:戦争ものだし、重くてつらい話?

戦時中×飛行機×野球っていう組み合わせ聴くと重そうに思うじゃないですか?それが、全然重くなかったんです。めっちゃ泣くけど、すごいスカッとする。湿っぽい話ではなく、清涼感がある。そりゃつらいシーンは沢山あるけど、観劇後の感想としてはめっちゃ悲しいけどすげースカッとするんですよ(語彙力)

飛行機で絶望に向かわなくてはならないはずの彼らが、楽しそうに野球をする。そしてひとつの夢を残して試合が、彼らの人生が終わる。

人生最期の野球をする彼らに悲壮感はなく思いの外「普通」で、それは野球が彼らにとっての日常だったから、野球をしている間は、日常でいられるから。

当たり前に出来ていた野球が、敵国発祥だというだけで禁止され、出来なくなってしまう。それまでの普通が、普通でなくなる。

そんな状況を淡々と見せることで、決して直接的なセリフは無いけれども、反戦のメッセージを感じますが、どちらかというとドキュメンタリーの見せ方に近いです。(一方的に主張するのではなく、事実を淡々と見せることで視聴者に思いを掻き立てる)

平成最後の夏にこの舞台がある意味を考えてしまいますね。

 

Q:野球のルール知らないとついていけない?

前提として私は、野球のルールくらいは知っているけど、野球というスポーツにそんなに思い入れはありません。

この舞台は、何も分からずに試合が始まって序盤はずっと普通に野球やってて、「家族が勝手に甲子園にチャンネル合わせた」みたいな気持ちになるんですが、終わる頃には「終わらないで欲しい」という気持ちになってるんです。

野球のルールが分からなくても、チームメイトたちの反応を見ればどちらに有利なプレーだったのか分かるので、問題ないと思います。

また、あえて言うならばこの舞台において勝ち負けはあまり重要ではなく、彼らがどんな思いで試合に臨んでいるのかが重要なので、そういう意味でも問題ありません。

 

Q:もののふシリーズと何が違うの?

結論から言うと私はそんなに既視感はありませんでした。別物。

もののふシリーズとの共通点を挙げておくならば、「死を覚悟した若者たちを、死にざまよりもどう生きたかを描くことで表現する」という感じですかね。客席から観ていて、彼らが楽しそうな様子を観ながら、彼らの置かれた境遇を思って泣く…みたいな。

一方で相違点は、まずは時代背景が違いますから、死生観が違う。(ここは上手く言語化出来ません…)同じように死を覚悟していても、何かこう…違いました。だれか言語化してくれ。

また、もののふシリーズを観た私は「歴史上の出来事に感動するのではなく、その渦中の人々の思いに感動するんだな」と、つまり結局「個々人に感動するんだ」と思ったんですが、野球を観た私は「彼ら個々人に感動したというよりは、彼らのする野球に感動した」という気持ちになりました。後述しますが、ここは明確にアプローチが違っていたと思います。もののふでは個人にフォーカスしており、野球では各野球チームにフォーカスしていた。それがそれぞれの作品で一番分かりやすいアプローチだったと思います。

 

Q:お芝居が観たいのに野球ばっかりされても…

たくさん野球の練習をして、芝居というより野球を観に来て欲しい!と言うキャストたちに「いやお芝居が観たいんだけどな…」という気持ちを持っていたんですが、観たら彼らと同じく、これは野球を観る舞台だという気持ちになりました。彼らは野球をする姿で沢山の背景を演じていました。

この舞台では試合と同時並行で途切れ途切れにエピソードが挟まる形式で、説明はあまりありません。だから野球そのもので流れを客席に理解させられるか、野球そのもので心情を伝えられるかが肝だから、たくさん野球の練習をしていたんですね。

キャストたちが青空の下で試合を経験したからこそ、劇場で私たちに青空を、土埃を、一振りの緊張感を感じさせることが出来るんだと。

演じているはずなのに、本当の高校球児の試合を観た気持ちで、でもお芝居としてもすごく良いものを観た気持ちで……訳がわからないよ!!

 

 

名もなき野球少年たちであること

もののふシリーズと違い、登場人物のキャラ造形があまり濃くないのもこの作品においては良かった。ちょっとお調子者だったり、ちょっと面倒見が良かったりするだけの、普通の子たちなんです。

西田さんはオリジナル作品でも、個として際立たせようとするなら記号的な口癖や所作でいくらでも個性を出せる人なので、多分意図的なのでしょう。髪型や衣装にも差異がありませんしね。

彼らが個として際立たないから、「会沢の野球部」、「伏ヶ丘の野球部」という集団が際立ち、「野球少年」というカテゴリが際立った。彼ら個々人よりも、彼らの野球に集中することが出来た。そう思います。

あ、没個性という意味ではないです。それぞれに個性があるけども、二次元的な極端な個性ではないということです。1人1人ちゃんと人として魅力的なので、そこはご安心ください。

 

訳がわからないまま感動する

なんかもう、観ながら泣きながら「今私なんで泣いてるんだろう?」ってなるんですよ。普段の私は積み重ねた伏線があってきっかけとなるシーンがあって決壊するんですが、「野球」では何に対して感動しているのか頭で理解できないまま心だけは震えて涙が流れてる。*1

甲子園のダイジェスト番組とか観ると、全然知らない高校なのに1つ2つエピソード紹介されると感情移入しちゃって、それからその子たちの戦いぶりとか負けて泣いてるの見せられると貰い泣きしちゃうじゃないですか?その感じに近いのかな。「私この子たち全然知らないのにな」って思いながら泣いてしまう。

 

 

西田大輔がすごい

というかまぁ、それは「西田大輔すごい」に収束するのかもしれません。彼らの野球に少しずつ感情移入してきた所で徐々に真相が明かされていき、山場はいくつもあるんですがそこでは音楽、照明、役者の動作全てがごちゃ混ぜになってひとつの豪速球になってこっちにぶつかって来る。2時間半のお芝居全体が、交響曲のように、数多のさざ波の後大波となって感情を揺さぶって来る。観ながら何回も、「あ〜〜今西田大輔の思い通りに感動してる〜〜!!」って悔しかったです。笑

脚本も演出も西田さんだからこの舞台が生まれるんだろうなぁ。どちらかだけだと、このとてつもない大波は生まれない気がします。

細かい演出の話をすると、舞台「野球」、おひさまの匂いがするんですよね…。開演時は晴天の下なんだろうなって分かるし、ほんとの土かライティングか分からないけど土埃を感じるし、8回くらいになると日が陰ってきたのが分かるんです。

で、日が陰ってきたのを感じながら「彼らにもっと野球をさせてあげたい」と思ってしまう。でもそう思うのは、序盤からずーっと彼らの野球を見せられていたからで、序盤は「野球やりすぎじゃね?」と思っていたのに手の平を返さざるを得ないです。

西田大輔ほんとに凄い。私が演出家を志していてこれを観たら、絶望してしまうんじゃないかってくらい、西田大輔の技量に感嘆し尽くしました。これまでも何回か西田作品は観ましたが、私は「野球」で一番感じました。

 

 

野球はいいぞ

多分、この作品で西田さんが一番伝えたかったのは、野球というスポーツの良さなのでしょう。野球には、選手たちの人生が詰まっている。語らずとも、伝わってくる。だから、試合を観るだけでも楽しいんだと。

私はまんまと序盤「野球ばっかやってるな…」から中盤「ウゥッこういう背景があったうえでプレーを観るとたまらんつらいなんで笑っていられるの」となり終盤「試合終わらないで〜〜!!!」状態でしたので、成功だったと思います。

あえて一番のメッセージを予想してみましたが、それ以外にも色んな要素がある舞台で、観る人それぞれにキーポイントが違うのではないかなと思いました。*2*3

野球を観ながら、お芝居に感動し、野球そのものにも感動する。彼らの置かれた境遇に憤りながら、それでも彼らの死生観には疑問を抱く。色んな矛盾が内在していて、でも気持ちよくスカッと終われる。本当に不思議な舞台です。沢山の方にぜひ、これを体感して頂きたいなと思います。

東京公演は8月5日(日)まで、大阪公演は8月25日(土)~8月26日(日)です。チケットまだまだプレイガイドにありますし、当日券も出ています。是非、足を運んでみてください。

www.homerun-contrail.com

 

*1:レミゼでも訳も分からず泣いたけどあちらは音楽という要素があるので…また違った訳のわからなさ、でも振り回されるの気持ちいい~

*2:私は大人組にかなり感情移入しました…村田さん演じる穂積兄のやるせなさ、林さん演じる菊池先生がどんな気持ちで知らない野球の本を読んできたか、など

*3:ていうか多分、彼は村田さんの役をやるはずだったんではないかなぁ